[ぼくのチャームポイントは]最近聴いたCD201805[体だけ?]
菅田将暉 - PLAY
いわゆるミュージシャンから俳優にジョブチェンジするパターンではなく、音楽活動をパーマネントに行っていない俳優が、自身がリスペクトするミュージシャンに囲まれ制作されたアルバムが大好きだ。それが俳優としての活動から普段のパーソナリティが見えないタイプだったらなおさら大好物だ。
個人的な2大フェイバリットはスカパラ、森山達也、忌野清志郎、三宅伸治、上田現などが参加した永瀬正敏の"CONEY ISLAND JELLYFISH"と、上田正樹、泉谷しげる、大野克夫、BOROなどが作曲陣に並び、チト河内プロデュースでなぜか全編南仏で録音された根津甚八のレゲエ~ナイヤビンギアルバム"火男"。好きなアルバムはたくさんあるが、ポイントは役者として演じきった上で垣間見れるパーソナリティの「滲み」だと思ってる。
菅田将暉の1st。amazarashi、石崎ひゅーい、忘れらんねえよ、黒猫チェルシー、米津玄師などバラエティに富んだ作曲陣が並ぶ中、全体的に2018年のアルバムと思えないほどのザラザラした無骨さ+情けなさばかりでぜんぜんシュッとしてない。また、映画「火花」の主題歌となった「浅草キッド」のカバーが入っているからかもしれないが、唯一の自身作詞作曲「ゆらゆら」(これがまたいい)やアコギ弾き語りのラスト「茜色の夕日」カバーも含め、全体通して消しきれない昭和臭さ。もっとスマートでコンテンポラリーなタイプの役者かと思ってたのに。悔しい。
Hollie Cook - Vessel of Love
セックスピストルズのポール・クックの娘、フーリー・クックのソロ5枚目となるアルバム。
そのチャーミングなルックスとハイトーンボイスは、UKのビッグネームにも届き、過去には再結成ビッグ・オーディオ・ダイナマイトでも歌ったり、イアン・ブラウンのフロントアクトにも抜擢されたこともあったそうだ。ずぶずぶのラヴァーズロックをベースに、シンセ多用のトロピカルでメロウなムードもある中で、リヴァーヴに埋もれながらも泳ぐようにスゥーッと響くハイトーンボイス。相性が悪いわけがない。
移籍したMERGEレコードって誰がいたっけ?と思って調べてみたら、USインディロックの生き字引こと(俺たちの)スーパーチャンクが在籍しているレーベルじゃないか。こんなアーティストも受け入れる懐の広さすごい。
彼女のキャリアは再結成スリッツで知ったんだけど、フーリーのほかにもアリ・アップはジョン・ライドン爺の義理の娘なので再結成スリッツはメンバーの4割がセックスピストルズ血縁者。遡れば初期メンバーのパルモリヴ(脱退後レインコーツ加入)はクラッシュのジョー・ストラマーのガールフレンドで、バンド結成して3回しか顔合わせしてないのにクラッシュの全英ツアーの前座に抜擢されたり、パルモリヴの後釜バッジーは脱退後スージー・アンド・ザ・バンシーズ加入と、本筋以外のスリッツ周辺の人物相関図は興味深いエピソードばかり。そういえばパルモリヴて今何やっているんだろう?と思って調べたら、結婚引退後普通に個人サイトを運営してた。
Albert Hammond, Jr - Francis Trouble
ストロークスのギタリスト、アルバート・ハモンドJrのソロ4作目は新天地レッドブルからのリリース。
ボーカルのジュリアンがソロ名義やVOIDSで本家ストロークスとは毛色の違うぎらついたエレクトロを鳴らす一方で、彼のソロはストロークスよりもストロークス的。力関係はわからないけど、ほかのメンバーと出身も境遇も違い一番最後に加入したメンバーなのにがっちりストロークスサウンドの中核を担っている印象。
アルバムの根底には死産してしまった自分の双子の兄弟フランシスにむけてのメッセージが込められているそうで、自身が36歳の頃にフランシスのことを深く知ることができたことにちなんで、アルバム収録時間も36分にされているそうなんだけど、なんと言っても"DvsL""Far Away Truths""Muted Beatings"と続く冒頭の3曲の持つ青天井の高揚感がたまらなく気持ちいい。
ストロークスの魅力を語るにはスタイリッシュなルックスと色気のある粘っこい声を持つジュリアンは欠かせないものなんだけど、少なくとも俺がストロークスに求めているもののすべてがこのアルバムには詰まっているといっても大げさではない気がする。
WEEZER - Pinkerton
「90年代オルタナシーンって何だったんだろう」とたまに考えることがあるんだけど、重要ファクターのひとつに「ロックスター」の価値観に多様性が生まれたということがあげられるんじゃないかと思ってる。シアトルの田舎のメタル崩れ=カート・コバーンを筆頭に、デヴィッド・リー・ロスやフレディ・マーキュリーのようなきらびやかな人間でなくても、その辺のあんちゃんが一躍ヒーローにのし上がれるようなムード。それは今で言ったらユーチューバーとかといっしょなのかな。
ロックスターを夢見てロサンゼルスに向かったコチカネット出身のリヴァース・クオモだって例外ではなく「バディホリー」の大ヒットで一躍時代の寵児となった彼がライブとプロモーションに心身ともにすり減らされるなか制作されたのがこのセカンド「ピンカートン」なんだそうだ。
重厚で疾走感のあるギターサウンドに赤裸々でセンチメンタルな歌詞を載せて明朗なポップソングを歌うというコンセプトは1stから持ち合わせている彼らの魅力だったのだけど、1曲目「タイヤード・オブ・セックス」でズバンズバン鳴り響く怒涛のビートの嵐の中「グルーピーとやりすぎてセックス飽きちゃった」と歌うリヴァースは、痛々しさまで滲み出るような凄まじいテンション。かと思えば好きな女がレズで実らない恋を歌った「ピンクトライアングル」の旋律はものすごい繊細。圧巻なのはラスト「バタフライ」。後半「I'm sorry..」がリフレインされるんだけど、他人事ながら情けなさ過ぎて涙がでる。彼らの魅力が陰と陽を行き来しながら規格外に突き抜けている快作だと思う。
実際、彼らのファンの多くもそう思っているみたいで、300万枚を突破した1stと比べてリリース当初はセールス的に大失敗したそうなんだけど、じわじわと売れ続けて20年かけてセールス100万枚を突破したんだそうだ。とてもいい話。