スピッツ - 醒めない
先行シングル「みなと」がものすごいいい曲でそのまま買ってしまった。
メンバー全員アラフィフとは思えないエバーグリーンの代表格というべき国民的な人気バンドで、慕う若手ミュージシャンもたくさんいて、お茶の間で観てても安心できて、、、もちろんスピッツにはいい曲がたくさんあるのは知ってるんだけど、こうやって改めてアルバムを聴くと、歌詞の世界に愕然とする。
スピッツってデビュー時から、言葉の隙間の中に無限の物語が詰まっているかのような情景描写と、ときにアクセントだけにプライオリティを置いたような言葉遊び、そしてそれを男女問わず嫌味ない状態まで純粋抽出したかのようなチョイスをすべて計算ずくで構築する唯一無二の存在だ、というのはそこまで熱心じゃない俺みたいなリスナーにも明確で、どの時代の曲にも必ず狂人的なパンチラインを擁した曲が存在しているんだけど、今作のそれは「子グマ!子グマ!」のサビ前「はんぶんこにしたすごい熱い中華まん、頬張る君が好き」じゃないかなと思ってる。
「醒めない」「みなと」そしてこの「子グマ!子グマ!」の冒頭3曲だけで簡単にマウントとられてしまう。物腰柔らかいのにものすごい腕力。
Dinosaur Jr - Give a Glimpse of What Yer Not
ダイナソーJr4年ぶりのアルバム。こってりへヴィーなリフ、いつ終わるのかわからないギターソロ、けだるくメランコリックなJのボーカル...大枠で捉えるといつもと一緒。強いて言えば汚ねぇプードルみたいなルックスのオルタナの重鎮ことルー・バーロウがボーカルをとる"Love is ..."が、トム・ペティやREMみたいなカントリールーツ風味のポップスで、いいアクセントとなっているところくらい。
ダイナソーJrが脅威なのは、これを80年代後半からずーっと同じテンションで続けている点。まわりを見渡すとソニック・ユースも解散、ペイブメントやピクシーズは再結成もすでにひと段落してしまった。ひとつ下のグランジ世代のバンドもほぼ壊滅状態。
ファンは当然周知のことなんだけど、あのライブでのけだるそうな表情とはうらはらに、Jは昔からいつでもやる気みなぎるポジティヴな人間だ。惰性ではなく、これは力づくで維持してるんじゃないだろうか。
そういう意味では冒頭の「大枠でとらえるといつもと一緒」というのは俺なりの最上級の褒め言葉。
MBONGWANA STAR - FROM KINSHASA
すっかり市民権を得たデジタルクンビアをはじめとして、バルカンミュージックやバスクミュージックなど、ここ10年で「ワールドミュージック+エレクトロニック」という組み合わせがだいぶ増えた気がする。
ワールドミュージックがだいぶ若い世代に降りてきたこともあるだろうし、マリミュージックに傾倒したデーモン・アルバーンみたいに大メジャーアーティストが土着的なものを大胆に取り入れるといったケースもある。
もしかしたらもともと世界的に盛り上がっていたものが、インターネットが普及して以降「見つかった」だけなのかもしれない。
とはいえ中には、結構安易で短絡的な組み合わせのものも多かったんだけど、友人から教えてもらったコンゴのベテラン歌手と若手フランス人ミュージシャンで構成されるこのンボングワナ・スター(言いにくい)は、陽気でアタッキーなアフロミュージックと、ポストパンク的なクールネスが有機的にいい塩梅の調合率で融合していて、ダンスミュージックの本質をグリッと見せつけられているような感じがある。
車イスのメンバーが2人いてこの熱量。たまらん。
PET SHOP BOYS - SUPER
上品さと下品さ、美しさと水商売感を併せ持つフッキーでポップなPSBのメロディは30年の芸歴で培った名人芸の粋。それを料理するのは、今から10年前、これまたアクの強い大物マドンナという素材を、ABBAのサンプリングで料理するという大仕事をやってのけたスチュアート・プライスが前作"Electric"(これもすばらしい)に続き担当。食い合わせが悪い訳がない。
スチュアートといえば、Les Rythmes Digitales、Zoot Woman、Jacques Lu Contと、たくさんの名義のなかで、ダサくてカッコ悪かった80年代をダンスフロアからオシャレでかっこいい音楽としてメタモルフォーゼさせた重要人物。特にLes Rythmes Digitales名義の「DackDancer(1999)」は今聴いても最先端の音楽なので、ホントおすすめ。
テクスチャや演奏形態が似ているからわかりにくいけど、EDMの源流はR&Bだと思っていて、個人的にはPSBの持つエレポップの文脈ってそもそも全く別のフォーマットだと思っている。尻の軽いPSBだけに若干不安だったけど、本当に余計なお世話だった。