[魅惑桃源郷飛行]最近聴いてる20230505[どれも正解のない教科書]

  • 投稿日:
  • by
Sleaford Mods - UK GRIM

01181114_63c756081b323.jpg

社会に対する不満や怒りをーキングスタイルで歌うイギリス労働者階級の代弁者スリーフォード・モッズの新作。イギリスを取り巻くリアルはイマイチピンとこないけど、先日飲んでいた時に隣にいた日本在住のイギリス人が「日本もクソだけど、イギリスよりまだマシ」って言っていたから相当なもんなんだろう。そんな想像をするとタイトル「UK GRIM」はUKグライムとグリム童話をかけているのかもしれない。
必要最低限に削ぎ落とされたビートは足腰の強さが強調されジェイソンの言葉がより強く響いている印象。Dry Cleaningのフローレンス・ショウが参加した"Force 10 From Navarone"は、フローレンスの陰鬱なトーキングスタイルが同じく少し不穏な響きをもつSleaford Modsのトラックと相性がとてもいい。90年代ミクスチャーバンドのレジェンド、ジェーンズアディクションのペリー・ファレルとデイヴ・ナヴァロがフィーチャリングされている"So Trendy"もかっこいい。A♭mのアルペジオを弾くだけのデイヴのギターは正直よくわかんなかったけど、エモさ全開のペリーの声は今も健在で安心した。政治家やセレブがコラージュで登場しまくるタイトルトラックのMVもかっこいい。



Sleaford Modsの魅力について「UK労働者階級の代弁者」「メッセージ性の高い歌詞を発信する現代のパンクバンド」みたいな意見が出てくるけど、俺にとってはまずとにかくジェイソンの声の説得力がデカい。この声は誰に一番近いか考えたんだけど、多分川谷拓三。




100 gecs - 10,000 gecs

100 gecs.jpg

ロサンゼルスの2人組100gecsの2nd。ざっくり「スカコアmeetsハイパーポップ」と形容できた1stから更に進化し、先行シングル"757"のような王道の(?)ハイパーポップや"Flog On The Floor"のような人を食ったような軽いスカポップみたいな曲が幹になりつつも、全編で聴かれるメタルギターのカットアップをはじめ"Doritos & Fritos"のNWっぽいアプローチ、"Billy Knowss Jamie"のようなミレニアム前後のミクスチャーロックサウンド、ベーシックトラックにスレンテンを使っている"The Most Wanted Person In The United States"など、やりたいことをやりたいだけ詰め込んだような印象。



ちょっと前までインターネットの海の片隅にあった「ハイパーポップ」というジャンルが完全にメインカルチャーになったんだなと感じさせるほどの圧巻の横綱相撲。




The Blaze - Jungle

3700187679927.jpg

先日のCoachellaでのアクトも好評だったパリの従兄弟によるエレクトロデュオBlazeの2nd。アフロハウス風味漂うエレクトロビート、ちょっとだけほろ苦いフッキーなメロディ、そしてフィーチャリングシンガーを呼ばず自前で歌う2人の心意気。これらが組み合わさって生まれる異常な高揚感。既存のエレクトログループだとここにUKぽい湿っぽさが見え隠れするんだけどこのグループにはあんまりその要素はなくて、雑な分類になるけどエレクトロというよりかはシューゲイザーバンドに近いのかもしれない。



今回のアルバムもこの高揚感は健在で、先行シングル"CLASH""DREAMER"で高揚感がいきなり天井を突き抜ける冒頭3曲が特にいい。




The Pop Group - Y IN DUB

1008366771.jpg

マーク・スチュワートが亡くなった。初めて聴いたアルバムは音楽雑誌の「パンク/NW必聴アルバム100選」みたいな記事に紹介されていたThe Pop Group「For How Much Longer」だった。キャッチー(だとずっと勘違いしていたけれど意味を知るとメッセージ性が高い)なジャケ、ジャズ、ファンク、ディスコ、ロックを「ジャンク」というフィルタにかけたアバンギャルドでフリーキーなサウンドはリリースから10年以上後追いで聴いていてもとても刺激的だった。その後はマークをはじめとしたThe Pop Groupのメンバーの活動を綺麗に追いかけ続けた。The Pop Group解散以降のMark Stewart and the Maffia(名前が怖い)やNew Age SteppersなどのON-Uとの蜜月時代はもちろん、オンタイムで追いかけられるようになった90年代のMUTEレーベル時代も大好きだった。
どのトラックでも一貫して怒り散らしシャウトスタイルだったマークだったけど、非常に豊かな音楽性を感じるものばかりだったし、なにより彼が歌う曲は今まで聴いたことのない音楽ばかりでとても刺激的だった。彼がブリストルにいなければトリップホップみたいなダウンビートも産まれなかったかもしれない。



本当はジムノペティや戦メリを大胆にビートジャックしたMUTEレーベル時代の音源を紹介したいのだけど、この辺の作品はひとつもサブスク配信されていないようなので今回紹介するのはポストパンクの最重要アルバムのひとつである「Y」をプロデューサー、デニス・ボーヴェルが再構築した2021年リリースのこちら。ダブ界の巨匠により解像度が上がった40年前の音源は最高に気持ちがいい。

多感な時期に出会った中で一番尖った音楽家だった。合掌。