Bon Iver - 22, A Million
もはやPitchforkの常連、ジャスティン・バーノン率いるBon Iverの3枚目となるアルバム。前2作と比べると、随分エレクトリック+アグレッシブになった印象。
後ろで清流のようにゆったり聴こえる生楽器のチルなカットアップに、カニエ直系の生々しいオートチューンボイスによるネオ・ゴスペル感あるハーモニーが乗り、スケール感のある幻想的な雰囲気で包み込むんだけれど、ヘッドホンで聴いてると「断線したかな?」みたいな気分にさせられるノイズがその幻想的な雰囲気を一気に現実に引き戻す...。結果、冒頭の"22 (OVER S∞∞N)"から、足が5センチくらい宙に浮いた感覚で最後まで付き合わされることになる。
前2作がセールス的に成功し、相当のプレッシャーの中で作られたアルバムだというのに、マイペースな歩幅で広大で幻想的なスケールの中でミニマルな音楽をやるという、デビュー当時のAPHEX TWINみたいな、あるいは「自分vs世界」みたいな音楽が支持されるんだからアメリカって本当に面白いなぁ。
SUPER DUMB - Join
湘南のレゲエ・バンド、SUPER DUMBの2年ぶりとなる新作。もともと80年代半ばハードコアパンクからキャリアが始まって、2006年に突然レゲエバンドとして再始動したバンドなんだそうだ。前作「UP SET」同様、荒金康祐のオルタナ感溢れるざらついたエンジニアワークにまずシビれる。
もっと気だるくってなげやりな印象だった前作の歌詞と比べると、このアルバムはもやもやとした日常の不安や憤りにクローズアップしているようで興味深い。
アナーキックな音の中にパンチライン満載のレベルミュージック。そして不良がときおり見せる弱さや優しさみたいなものが出てるスウィートなヴォーカル。それは20年前「ときどき自分が不安になる」と歌ったキミドリのよう。
The Explorers Club - Together
サウスカロライナのビートルズ狂ことThe Explorers Clubの新作。ゲストミュージシャンとしてブライアン・ウィルソン・バンドのメンバーまで呼び込んで作られた、どこを切り取っても極上のグッドバイブレーション。
こういう、ビーチボーイズに憧れて使用機材やコードワークをマニアックな域まで模倣することによって過去のレジェンドに近づこうとするバンドはこれまで世界中に数多いたと思うけど、このバンドは「ビーチボーイズの何が気持ちいいのか」という根本の命題を見失うことなく、きちんと目的と手段を整理して活動している数少ないバンドなんじゃないかと思う。
それがこのアルバムの"Don't Waste Her Time"のメロディとハーモニーに詰まってるような気がする。
Boom Pam - Manara & Summer Singles
イスラエルのサーフ・ロック・バンドBoom Pam。バルカンビーツの創始者DJシャンテルがアルバムをプロデュースした経緯もあったり、ギターのウリはイスラエル出身のジプシーファンクバンド、バルカン・ビート・ボックスの元メンバーということもあり、バルカンミュージック界では有名で何度か来日公演も行っている。サーフギターとシンセとチューバとドラムという、いわゆる西洋バンドシーンからすると訳がわからない編成だけど、イスラエルじゃコレがポピュラーなのかも。
1曲目"Telster"を筆頭にサーフロックのスタンダードと、それよりもバルカンミュージック寄りのオリジナル曲で構成されていて、一聴するとデタラメなバンドだなと思うけど、意外とサーフギターとバルカンミュージックの旋律って近いものがあって相性がいい。"Cecilia Ann"はどっかで聴いたことがあるなと思ったら、昔Pixiesがカバーしてた。
アルバムラストを飾るのは同じくイスラエル出身のパンチの効いたボーカルKalorinaをゲストに迎え、アラビア音階でアレンジされたレッド・ツェッペリン"black dog"カバー。痛快。